監督・脚本坂下 雄一郎Yuichiro Sakashitaこの映画に出てくる登場人物はモデルだらけです…でも、この作品は「フィクション」なんですよ(笑)。ーそもそもこの映画を撮ろうと思ったキッカケは?「周りと題材が重ならない企画を撮ろう」という所からです(笑)。周りと言っても日本映画界ではなく、もちろんハリウッドでもありません。僕が居た“学生映画”の範囲内のことです。当時僕は東京芸大の院生で修了制作の企画を考えていたんですが、これといって何も浮かびませんでした。勉強のため、まわりの学生映画や自主制作映画を見て回ったんですが、予算の規模が似ているせいか、みんなある程度似た題材の映画を撮っていたんです。例えば、「居酒屋」とか、主人公の家が「ワンルームのアパート」だったり。登場人物の少なさも同じような規模でした。個人的に僕自身がそういうのを見飽きていたのもあって、“それら”を出すのはやめようと思ったんです。ただ、学生映画という“制限”にあてはまる企画を考えてみようと。それが始まりでした。ー「神奈川芸術大学映像学科研究室」。 このタイトルそのもの。大学の映像学科が舞台の映画となっていますね。大学院の修了制作という名目上、撮影日は決まっていましたので、いつまでも企画を考えているわけにもいきませんでした。そこで考えたのは、「自分が経験したことなら書きやすいのでは?」ということでした。今まで自分が経験したことで、さらに映画になりそうな題材を振り返ってみたんです。一つだけあったのが、大阪芸術大学時代の「助手」という経験(大阪では「副手」と呼んでいました)。大学が舞台の映画はよくありますが、生徒でも教授でもない助手が主人公の映画は少ないですし、自分は経験していることでも、その環境はあまり人には知られていない。そこで何かの事件が起きたらどうなるか。それなら“面白い”映画が作れるかもしれないと思ったんです。それに気づいた時は興奮しましたね。自分自身でも不思議なんですが、作ってない映画について阿呆のように興奮することがよくあるんです(笑)。大概が勘違いで終わるんですが。ー個性的で魅力的。また、実力派の若手俳優陣。そのキャスティングをした経緯を教えてください。基本的にみなさん知り合いの知り合いでした(笑)。飯田さんに関しては大学院の別の実習に出演していたのを見て「良いなぁ」って思ってました。友達の推薦もあったので、“是非と”お願いしたんです。笠原さんも同様で、一つ下の学生が撮った実習の作品に出演していたので、その素材を見せてもらい「声の低さが面白くて」お願いしました。前野さんは大阪芸大の一学年上の先輩でしたし、単純に尊敬しているので、どんな企画になってもお願いしようと思ってましたね。ー理想のキャスティングもあり、企画から完成まで順調だったのでしょうか。2012年の春から2ヶ月ぐらいかけてプロットを練りました。それを誰にも見せずに無謀にも6月からシナリオに取りかかってしまったんです(笑)。シナリオは7月中に第1稿が完成。しかしそこから別件の撮影が始まったのでシナリオを中断したんです。再開したのは9月で、シナリオを改訂しながら他の準備も始めましたね。撮影は10月下旬の2週間。ロケ場所は主に東京芸術大学の横浜校舎周辺で撮りました。室内はほぼ校舎です。というか、7割以上のロケ地が芸大から徒歩数分の場所なんです。芸大の横浜校舎には大学キャンパスのような場所がないので、大学風景のみ横浜美術大学で撮影しています。撮影自体は驚くほど順調で、特に厳しい撮影もなかったですね。朝に集合して、夜のシーンの撮影があっても終電前には終了する健全な撮影でした(笑)。撮影が終わってから、11月から編集に2週間、MAも2週間。そこから完パケのDCPを作成したんですが、他の班の編集作業と重なって編集室が使えず、再開したのは年明けでした。そこから不具合等の修正を繰り返し、完成したのは2月末でしたね。ーシニカルな笑いを誘うシーンが印象的なこの作品。登場人物の“モデル”になるような方がいらっしゃったのですか?モデルだらけです(笑)。おそらく見た人は、「これ、俺じゃないか?」とわかる程だと思うので。今度お一人ずつに菓子折りでも持って謝ろうと思ってます(笑)。ただ、僕自身が何か不祥事を起こすようなタイプではなかったです。あくまで健全な学生でしたので。ただ、この映画でもキーワードのひとつになっている“隠ぺい”ですが、僕も今まで数々のことを隠蔽してきましたし、今も隠蔽したいことだらけです(笑)。健全な学生だったけど隠蔽もする。矛盾に見えるかもしれませんが、それが人間なんですよ。きっと(笑)。だからこの作品はフィクションです(笑)。ーそんなリアルな人物描写を演出してますが、お気に入りのシーンや台詞は?学生たちが上映会の会議をしている時に、「(上映順が)最初で人が来る訳ないだろ!」というシーンは気に入っています。実際に大阪芸術大学の卒業制作展で自分の作品が初日の一番最初の上映でした。その時のお客さんは5人(笑)。 それと、この映画でのこだわりは、あまり主人公に心情を正直に語らせないようにしたところです。実際アルバイトでもなんでも、“下っ端”は職場では敬語ばかりで、「自分の言葉を喋る機会」はあまりないかと思うんですよね。ー撮影現場での印象に残る思い出は?撮影がいつも早く終わるのは嬉しかったです。それから撮影中はあまり役者さんとは喋らないのですが、休憩中に飯田さんが気を使って話しかけてくださったのに、会話が特に弾まなかったのは今でも悔いています。ー今回、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013で審査員特別賞を受賞、そしてSKIPシティDシネマプロジェクトに選出されて劇場公開が決まりましたね。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の締め切りは作品が完パケして数日後だったんです。初めてこの作品を応募した映画祭でした。それがまさか賞までいただき、SKIPシティDシネマプロジェクトに選出されるなんて、「出来すぎ」だと思っています。もうSKIPシティの方角に足を向けては寝られません(笑)。学生映画や自主制作映画は、劇場で公開される機会が少なく、見逃されがちです。ですが、そのような規模でも見所のある作品があることを知っていただけたらと思います。